大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和26年(行)10号 判決

原告 大西末子

被告 大阪府知事

一、主  文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は「被告が原告の夫大西仙太郎の昭和二十五年度産米に対し割当面積不当のまま昭和二十六年三月六日に為した収用処分を取消す。」との判決を求め、請求の原因として、「原告及び原告の夫大西仙太郎は原告肩書住所地に於て農業を営む者であるが、仙太郎の昭和二十五年度産米の作付面積は四反一畝十五歩であるのに五反六畝二十九歩の割当があり、之を標準として供出の割当を受けた。そこで原告は割当面積の不当及び之に基く供出割当の不当について異議を申立てたがこれを却下せられた。原告は供出の責任を免れようとの考は毛頭ないのであつて、期限迄に供出しなかつたのは不当な事前割当の是正を俟ち、納得のできる供出をしたいためであり従つて問題の解決する迄供出米を保管する考であつた。然るに被告は不当な割当に基いて供出を命じ昭和二十六年三月六日強制収用をしたものであつて、このように不当な事前割当に基く収用処分は違法であるから取消を求める。なお本件収用に関し作成せられた食糧緊急措置令施行規則第十二条による受領調書には所有者又は管理者として原告の氏名を記載してあるが、米の所有者及び管理者はいずれも仙太郎である。しかし仙太郎は昭和二十四年十月十日農事実行組合から除名されているので原告は仙太郎より供出に関する一切の事項の委任を受け同人を代理しているものである。」と陳述した。(立証省略)

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として「被告が原告主張のような収用処分をしたことは認めるが、それは次のような理由によるものである。即ち原告の夫大西仙太郎に対する昭和二十五年度産米の供出割当数量は変更供出数量三石六合九勺(事前割当供出数量五石七斗三升六合九勺、供出減額数量二石七斗三升)及び超過供出割当数量四斗三勺合計三石四斗九合九勺であつたところ、同人は食糧管理法施行規則第三条の一に基き知事が定めた供出期限である昭和二十六年二月一日を経過しても全く供出しないので、被告は南郷村農業調整委員会長前田清三郎の収用申請に基き食糧緊急措置令により合法的に収用したものであつて、何等の違法もない。原告は作付面積の割当が不当であると言うが、それは農家の経済上米よりも有利な『れんこん』の作付のため米の作付面積が不足になつたものであり、原告の異議申立が却下せられたのは輸入食糧に依存していた当時の食糧事情の下では、右のようなことは正当な理由とは認められなかつたからである。」と陳述した。(立証省略)

三、理  由

被告が原告主張のような収用処分をしたことは当事者間に争のないところであるが、原告の請求の当否を判断する前に、原告が本訴の当事者となる適格があるか否かについて職権を以て調査すると、収用された米が原告の夫大西仙太郎の所有及び管理に属することは原告の自認するところであるから、本件の収用処分について法律上の利害関係を有する者は原告の夫仙太郎であつて、原告は事実上はともかく法律上はこれにつき利害関係を有するものと認めることはできない。それならば原告は本件収用処分の取消を求める法律上の利益がなく従つて本訴の当事者となる適格がないものと言うべきである。尤も原告は夫仙太郎が実行組合を除名されたので夫の委任により供出に関する一切の行為を代理していると主張するので、本訴も夫のために提起したものと考えなければならないかも知れない。しかし現行法上自己の名を以て他人のために訴訟を行うことは法令に規定がある場合その他特別の場合に目的物の権利者がその目的物の処分管理の権能を他人に授権し、これに附随して訴訟追行権の授権があつたような場合に限つて認められているのであり、原告の場合はもとより法令の規定に依るものではなく、又本件収用処分の目的物である米の所有及び管理は原告の夫仙太郎に属していて原告に属しないこと前記の通りであるとすれば、原告の場合を以て右のような特別の場合と認むべきものでないこと言をまたないところであり、結局原告は本訴の当事者となる適格がないものと言わなければならぬ。そこで本訴は不適法であるから之を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 山下朝一 石沢三千雄 岩崎康夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!